らくらく化学実験_抽出 酸塩基反応 中和 染色 繊維

紅染めにしてくれない   紅花染め 抽出 中和

  日本古来の伝統染色において特筆すべき存在のベニバナ染め。草木染めには違いないのですが、二種類の色素が含まれていて、それぞれ染色の作業も染色作品の出来映えも異なります。

末摘花として知られる

色濃くなる前の花を摘む

「手 順」
  1. 色濃くなる前の黄色い花を選んで花びらを適量摘み、軽く水洗いして、ゴミを取り除く。その後、ザルに上げ、一日置く。その間、数回霧吹きで水分を与え、軽くかき混ぜる。
  2. 花びらを器に入れて棒でつき、木綿布に入れて口をしばり、水に浸けてよくもむ。得られた黄色の染液は、水溶性の色素サフラワーイエローである。こちらは「黄染め」の染料として使うので、はじめの方の濃い液を多めに取っておく。その後、花びらは「紅染め」に使用するので、ここで完全に黄色染料を抜いておく。
【黄染め】
  1. 黄色の色素を80℃程度に温め、布を入れて数分間色をなじませる。
  2. 布を軽く絞って、ミョウバン水溶液(80℃)にいれて媒染する。
  3. 水洗して、ミョウバンをよく洗い流す。
  4. 以上の操作を数回繰り返し、布を干して乾燥させる。
【紅染め】
  1. 水溶性の色素を完全に抜いた花びらを今度はアルカリ性溶液(8%程度の炭酸カリウム)中でもみしごき、紅色素液を得る。
  2. 布で紅色素液を濾し採る。
  3. 紅色素液に、5%程度のクエン酸溶液を少しづつ加え、二酸化炭素の発生が緩やかになり、暗赤色が鮮やかな赤色に変化したら止める。
  4. あらかじめぬるま湯につけておいた染布を染液に入れ、静かにかき混ぜる。
  5. 水洗して、余分な色素を洗い流す。
  6. 再度、紅色素液に布を入れて操作を繰り返す。
  7. 最後に、クエン酸の薄い液に、染めた絹を数分浸す。その後、軽く水洗いして陰干しする。

花びらを布に包んで水溶性の黄色素を絞り出す。はじめの濃い液は取っておいて黄染めにする。

水溶性の黄色色素はここでできる限り除いておかないと紅染めが難しくなる。

アルミニウムイオンで媒染すると、黄色色素が定着する。

大量に染液を得るには、布ではなく、容器を使うとよい。

アルカリ性下で赤色素を取り出す。色素のカルタミンは、塩を
作って溶解する。

完全に色素を搾り取ったあとの花びらのカス。色素はかなり得ることができる。

アルカリをクエン酸で中和する。二酸化炭素の発生が止まるまで加えること。

染液に色が付いているうちは何度か使い回しが可能。取り出して陰干しして乾かす。

原液が薄い場合は、繊維をここで浸して、このまま酸の中和を行ってもかまわない。

繊維を薄いクエン酸液に浸すと、色素が遊離してくる。浸ると鮮やかな赤色となる。

木綿の絞り染め:黄色色素が残っている場合は良く洗い直す。

毛(上)、木綿(右)の薄紅色も美しいが、やはり絹の染まり方はずば抜けている。

左:黄色 右:紅 同じ花びらからこれだけ違う色調が得られる。

ガーゼは少ない染料でよく染まるので生徒実験向き。


「注意と工夫」
  1. 水洗いで浸出してくる水溶性の色素とは、サフラワーイエロー(Safflower Yellow)で、黄色を呈しているはずです。ちなみに、ベニバナの洋名はサフラワーで、こちらの色素にその名が使われたわけです。この黄色の染色液は、「黄染」として、木綿の染色に適し、染色方法は一般的な植物色素の例に準じます。ここで得られるサフラワーイエローは、特にスズイオンで媒染すると良い色に発色定着できるようです。
  2. ベニバナの主色素であるカルタミン(Carthamin)は、媒染によってほとんど、発色や固着の効果がありません。そこで、水に不溶性だがアルカリ性溶液には溶解しやすい性質を利用します。染め上げの際に酸を使うのは、アルカリ性溶液に溶けていたカルタミンを遊離させ、布に定着させるためです。クエン酸を加える量は、紅色素のもみ出しの際に使ったアルカリ性溶液の量によりますが、加えすぎると色素が沈殿してしまうので注意が必要です。
  3. 染布地としては絹が最適で、1回の染まり方の差は、画像比較の通りです。また、多くの市販の素材は洗練済みですが、そうでない場合は次のような下処理をしておくのが望ましいと思われます。絹、木綿はともに、5%の炭酸カリウムで15分ほど煮ます。毛糸も同様ですが、60℃程度でとどめておきます。その後、絹は、水洗して水に浸しておきます。木綿は、牛乳や豆汁に浸し、毛糸は、ぬるま湯に浸しておくと染まりが良いとされます。
  4. しぼっては乾かしをくり返せば色濃く染まります。しかし、本格的な草木染めは大変難度が高く、布素材(絹、木綿、毛)や媒染の手法は専門書を参考にされることをお勧めします。

最古級の繊維染色技術

 ベニバナは中東原産で、古くはエジプト第六王朝時代の碑文にその記述があり、繊維染色としては最古級です。日本へは推古天皇時代にシルクロードを経て高句麗より伝えられ、染料や薬用として広く使われましたが、最近の考古資料によると、伝来時期はかなり前にさかのぼるようです。万葉時代はベニバナのことを「くれなゐ(紅)」と呼んでいましたが、呉(くれ:高麗が訛ったとも)の国の藍染め、略して「くれなゐ」だそうです。茎の先端に付いた花を摘むことから、末摘花とも呼ばれますが、こちらの名の方は源氏物語第6帖の題でも知られています。
 ベニバナ色素は、古来より衣料はもちろん、化粧用の「紅」としても重宝され、価格は金をはるかに上回るものであったそうです。江戸の初期には、最上ベニバナ(現在は山形県花)が、海船で酒田〜敦賀へと、大津を経て京へと運ばれました。いわゆる「紅の道」で、かの上杉鷹山も栽培を奨励し、米沢藩の財政立て直しに大いに貢献したとあります。化粧用の紅を抽出する独自の技術が開発されるなど、日本では江戸時代を頂点に盛んに栽培されたベニバナですが、発祥の地である中東や中央アジアではその後、ベニバナを利用する文化がどういうわけか残らなかったようです。
 最近、色素カルタミンに人体内の活性酸素を消したり、脳疾患を防止する働きがあるらしいことがわかり、医薬原料としてにわかに注目される物質となっています。
 
  伝統的な染色技法や関連の事項について→色の万華鏡(吉岡幸雄)

ベニバナ(くれなゐ)を詠んだ歌
紅の深染めの衣を下に着ば 人の見らくににほい出むかも
万葉集 巻十一 2828 作者不詳 
『歌意』 紅の色濃く染めた衣を下着として着たのだが、人が見てその色が透けて見えはしないだろうか。
紅花から学ぶ化学の授業実践例
「参 考」
・そだててあそぼうベニバナの絵本(渡部俊三 小野恵二 農文協)
・草木染技法全書(山崎青樹 美術出版社)
・万葉植物事典(山田卓三 中嶋信太郎:北隆館)

編集:山田暢司 埼玉県立坂戸高等学校